ある日の午前中、直子ちゃん(小4)のお母さんより電話がありました。

電話の内容をまとめると、こんな感じでした。

毎日決まった時間に練習をすればいいのにしない。しかも言われるまでやらない。
この時間はピアノの練習時間って決めておけば、毎日コツコツ積み重ねることが出来るのに、時間を決めてないからやったりやらなかったり、中途半端になる。
こんなことではコンクールの結果は目に見えている。

話を聞きながら、お母さんは毎日決まった時間に練習をする、同じアプローチで練習をする(ハノンから始まって、スケールやって・・・)タイプ・…聴覚系で触覚系なのかなぁ、と思いました。

直子ちゃんは私の目から見て、視覚系 短期集中型。のらないとやらない、面白くないとやりたくないタイプです。

私の直子ちゃんへの口癖は、「長時間練習しなくてもいいからね」と、「目標を決めて、そこが出来るようになったら一日の練習を終わっていいよ」「いつも新鮮にピアノを弾いて!弾きたくないのに弾く必要ないから。その時は指のストレッチや体操だけして練習をやめてもいいよ」です。

お母さんは自分と同じようにコツコツ練習をしない直子ちゃんにイライラしていました。

「練習するのは誰ですか?」
直子母「もちろん直子です。でも毎日練習しないとうまくなりませんよね?」
「そうだね。でも嫌々やってもうまくならないよね」

直子母「でも私が言わなかったらいつまでもやらないんです」
「あ~~その気持ちすごくよくわかるよ」
直子母「このままいったら結果は見えているじゃないですか。それを黙っている訳にはいかないんです」

「なるほどね・・・」

お母さんは電話好きなのか、2時間半しゃべり続けました。

主に私の話はほとんど聞いていなくて、とにかく話したいことを全部話さないと気が済まないのかな、と思いました。

聞きながら、お母さんのセリフの中にたくさん繰り返されていた単語に注目してみると、

「~~くれない」わかってくれない やってくれない 聞いてくれない

「~~のに」毎日言っているのに ちゃんと言ったのに 心配しているのに

がとても多いことに気がつきました。

きっと直子ちゃんもこの二つの言葉、耳にタコが出来るほど聞いていたのかも・・・。

「お母さんはコンクールで結果が出したい?それとも、本人のやる気が出したい?」
直子母「両方です!」

「わぁ、欲張ったね~~(笑)。じゃあ両方手に入れるにはどうしたらいいかな」
直子母「毎日練習を真面目にやるしかないんです。だから直子に嫌がられても毎日口を酸っぱくして言っているのに、やらないんです」

「直子ちゃんだって練習してるんでしょう?そのときは楽しそうに弾いてるの?」
直子母「私にヤイヤイ言われてからやるから、不機嫌で投げやりです」

「そんな不機嫌な練習でも毎日やったほうがいいの?」
直子母「やったほうが良くないですか?」

「私が質問してるんだけど・・・(笑)その練習でうまくなってると思う?」
直子母「弾かないよりはいいと思います」

「なるほど、だったら結構お母さんの思い通りになってるんじゃない?」
直子母「いや、本人から自発的にやって欲しいんです。もっと本気で弾いてほしいんです」

「どうして本気で弾いてくれないのかな?何がやる気を奪ってるの?」
直子母「私に口うるさく言われるからです。まぁ、私でしょうね」

「そうか。直子ちゃんがお母さんから言われる前に自発的にやることもあるの?」
直子母「たま~~にあります。でもそういう時は何かの伴奏とか、関係ないものです」
「なるほど。その時は楽しそうに弾いてるの?」
直子母「はい」

「毎日弾かないよりはいいだろう、程度の不機嫌な練習をするのと、たま~~~にだけど、楽しそうに弾いてくれるのとどっちがいい?」
直子母「毎日楽しそうにたくさん練習してくれたら言う事ないんですけど、それは無いんですよね?」
「(笑)今はその選択肢はないね」
直子母「だったらたま~に楽しそう、にします」

「そうか。今すぐ結果を出す、というのと本人のやる気を出す、という2つのどっちかを捨てられそうかな?」
直子母「捨てるなら今すぐ結果を出す、ですかね。今の状態ではどっちにしても出せませんし・・・」

「そうなの?お母さんは今結果が出したいの?来年の結果につながればいいの?」
直子母「来年までピアノが続いているのであれば、来年でもいいです」
「そう?どうして来年は続いていないかも、って思うの?」
直子母「今でも嫌々練習してますからね。いつ辞めるって言うかわかりませんし」

「そうか。楽しく弾いてもらうためにお母さんが出来ることは何かな?」
直子母「・・・・・私が黙っておくことですかね・・・」

「出来そう?『弾かぬなら弾くまで待とう、ほととぎす』の徳川家康作戦だね!」
直子母「でもそれだと絶対に結果は出ませんよね?絶対弾かないし・・・。来月のコンクールはやめさせましょうか・・・」

「え?お母さんが勝手に決めるの?それじゃ『弾かぬなら殺してしまえ』の織田信長だよ!」
直子母「(笑)ダメですか・・・もう私の身がもたないんですけど・・・」

「それを本人に選択させたらどうかな。お母さんがコンクール受けるわけじゃないんだし」
直子母「なるほど。そうですよね。やらなかったら結果も出ない、しんどい練習をやれば結果が出る、どっちがいいかを選択させるんですね」

「そうだね。コンクールまでの間は嫌でも練習やろうかな、と思うか、今回は諦めようと思うか、直子ちゃんに決めてもらおう」
直子母「直子が『諦める』って言ったら、それに従うんですか?」

「(笑)そりゃ、そうじゃないの?選ばせたんだから」
直子母「え~~~??怖すぎます!」

「何が怖いの?」
直子母「直子のことだから諦める方を選ぶかもしれませんよ。あ、でも練習をする方を選んでも結果が出る保証はないんですよね、それも怖いですね・・・」

「そうだよね。だからお母さんが決めずに、直子ちゃんに選んでもらった方がいいんじゃないの??(笑)」
直子母「本当ですね(笑)そうします」

2時間半、私はただただ質問を投げかけていただけでした。
提案をすることもありましたが、最終的に心を決めて進むべき道を決めたのはお母さん。

答えはいつも相手の心の中にあります。
どの答えを選択しても、その選択を尊重して、ゴールに向かって一緒に歩いていきたいと思っています。