ある日、小学2年生ののりちゃんがお手紙をくれました。
その手紙にはかわいい字で彼女の思いが書かれていました。
いつもピアノをおしえてくれてありがとうございます。
さいしょピアノをおしえてくれた時、すごく楽しかったです。
はじめはすごくかんたんな曲でした。
1年生ごろから、すごく曲がむずかしくなってきました。
1週間に1回だけのレッスンは、きんちょうします。
先生にちゅういされた時は、私は下手なんだなぁ~と思います。
先生にほめられた時は、すごくうれしいです。
家でレッスンのビデオを見てれんしゅうするのがきらいでした。
楽しくひけた時は、早く先生に聞いてもらいたいなぁと思いました。
わたしが上手になったな~と思った時は、お母さんがいっしょにれんしゅうをしてくれています。
でもいつもわたしはお母さんの言うことをちゃんと聞いてれんしゅうしませんでした。
おかあさんが「ピアノをやって」と言うときは、わたしはまんがを読んでいます。
いつも「やだ~~~」とへんじをします。
そしてお母さんがおこった時にれんしゅうをします。
わたしはカレンダーにシールをはっています。
お父さんとやった時はお父さんは点をつけてくれます。
まちがえた時は70点ぐらいです。お父さんが100点と言った時はバッチシの時です。
こんどからやります。
典子より
その裏には漫画が描かれていて、笑顔ののりちゃんと笑顔のお母さんが会話している様子が書いてありました。
この微笑ましい手紙を読んで、あ~~~のりちゃんは笑顔で練習がしたいんだな、お母さんに褒めてもらいたいんだな、と思いました。
そして、曲も本人の希望と反して急に難しくなってしまったんだなぁ、と感じました。
のりちゃんの心の声を聞いて、ちょっとのりちゃんに質問してみました。
私「のりちゃんは練習が好きじゃないんだね」
典子「うん」
私「私も嫌い(笑)。練習しないで上手くなりたいなぁって小さい頃ずっと考えてた。今も考えてるんだけどね!じゃぁ練習あんまりしなくてもいい曲をしようか!?」
典子「それはいやだ」
私「あれ?どうして?でも難しい曲になると練習しないと弾けないよ。いいの?」
典子「いい」
私「じゃぁ毎日練習してくれるの?えらいなぁ~。お母さんの言うこと聞くの?」
典子「・・・・」
私「じゃぁ、のりちゃんのリクエストをおしえて!どんな練習だったら毎日出来る?」
典子「お母さんと練習したいけど、その時はやさしく教えてほしい。それと時間を短くしてほしい」
私「いいね~~!そのためにのりちゃんが出来ることは何かな?」
典子「(しばらく時間をおいて)お母さんの言うことを聞く」
私「いいね~!きっとお母さんも聞いてくれると思うよ。お母さんのリクエストを聞いてみようね」
典子母「素直にピアノに向ってほしいです。ピアノの前に座った時点でもう機嫌が悪いので」
私「あら・・のりちゃん。どうして機嫌が悪いの?」
典子「だって漫画が読みたい時だから」
私「そうか。じゃぁ漫画の前に練習するのと後に練習するのとどっちがいい?」
典子「漫画の前にする」
私「いいね!頑張って練習したらいっぱいご褒美で漫画が読めるよ!」
典子「うん(満面の笑顔)」
私「じゃぁ、練習時間はどれくらいにする?30分?1時間?」
典子「30分」
私「了解!じゃぁ30分漫画タイムのごほうびね!」
典子「あ、1時間する」
私「お~~、増えたね!ご褒美も増えるもんね!お母さんこれでどうですか?」
典子母「わかりました。今が伸び時だと思うんですけど、こんなにのんびりしていていいんですか?」
私「なるほど。今が伸び時かも知れないね。でものりちゃんの伸び時って、もう少し後にどか~んとくるような気がするんだけど、その時まで待たない?」
お母さん「早く自分で気がついてほしいと思うんですけど、親ばっかりが焦ってしまって・・・」
私「わかるよ。そうだよね。ここは『北風と太陽』のように、のりちゃんが自分でコートを脱ぐまで、温かく見守りましょう。出来るかな?」
お母さん「はい(笑顔で)」
このやりとりで劇的な変化があるとは思いませんが、どんなに面倒くさくても、いつも本人の意思確認をして、本人と契約を取り交わし、変更があればその都度見直し、確認して行かないといけないんだなぁと痛感しました。
のりちゃんが書いてくれた手紙は、のりちゃんが描いていた理想の形です。
のりちゃんの理想の形とお母さんの理想の形が一致しているときはスムーズに進みますが、どちらかの思いが先走ったりしてバランスが崩れることもあります。
その時にはいつも主役は誰でしょうか、と思い出すといいですね。
無理やり引っ張って行っても、力づくでやらせても、その結果、たとえお母さんの理想通りのいい結果が出ても、主役が達成感を感じていなければ、長続きしないのです。
その理想に近づくために、私たち(指導者とお母さん)は、いつも主役の意思を確認しないといけないのだと思いました。
のりちゃん、お手紙ありがとう!いいことを教えてくれてありがとう!