ピアノ教室のあるある話
コンクールに挑戦して頑張っている彩月ちゃん(中1)のお母さんから
「最近、どうも娘を責めてばっかりで、自分自身が嫌になります」
と相談がありました。
原因は、なかなかお母さんの思うように動かない彩月ちゃんにもある…とは思いましたが、ちょっと視点を変えて、お母さんに質問をしてみることにしました。
私「最近、なにかトラブルとか、気になることがありましたか?」
彩月母「娘とですか?」
私「いえ、お母さん自身に、です」
彩月母「いえ、別に何もなかった、と思います。
…あ~~、でもちょっと仕事で面白くないというか、落ち込むことがありましたかね」
私「そうでしたか…。そのことで、精神的にも大変な思いをされたんですね」
彩月母「でもそれは、娘とは切り離して考えていました。
娘には一切関係ないことなので…。娘にも話していませんし」
私「そうだよね。わかるわかる。だから余計にしんどいよね!」
お母さんの話を聞きながら、私に思い当たることがあったので、そのことをシェアさせてもらいました。
私も娘たちにピアノを教えている時に、自分の気持ちをコントロールできない時がありました。
例えば、指導者のグループ代表としての雑事に追われて余裕がなくなったり、気にしても仕方がないことがずっと頭をめぐっていたり…。
もちろん逆の時もあり、同じように気がかりなことがあっても全く気にもならない時もあるのですが…。
精神的に余裕がない時は、無意識に娘たちにガミガミ言ったり、言い方がきつくなったりするときがあり、当然、娘たちもそんな私には大きく抵抗するので言い争いになって、何もかもうまくいかず、八方ふさがりでした。
そして、そういう時は娘たちもコンクールやステージで思ったような演奏が出来なかった記憶があります。
きちんとサポートできなかったことを反省したものです。
余裕があるときは
「ねぇねぇ、ちょっとお話してもいい?」
「一緒にやろうか」
って笑顔で娘たちに話しかけるのに、余裕がない時はいきなり
「ねぇ、どうしていつまでもそこで休憩してるの?」
「練習しなくていいの?」
とけんか腰だったり、娘たちから話しかけられても
「そんなことは、自分で考えなさい」
と突き放したり…。
困ったことにこのイライラやガミガミ口調は癖になり、だんだんとその負のループから抜け出せなくなります。
最初はちょっとそんな自分に違和感があるのですが、毎日言っていると、すっかりそのヤクザ口調が板についてしまうわけです
それは親子関係だけでなく、仕事でもあることかもしれません。
ついつい言い方がきつくなったり、言葉に圧をかけたり、無意識のうちに日常の話し方が変わっていくことってありますよね。
そんな時、私はいつも「全く、うちの娘は…」とか「なんなん、あの人…」とか周りの人のせいにしていたのですが、ある時、ハッと気がつきました。
これってすべて私の心の余裕の無さから来ているんだ。
原因は私なんだ、と。
黙って私の昔話を聞いていた彩月ママ。
彩月母「その通りです。すっかり彩月に八つ当たりしていました。
イライラをあの子にぶつけていたんですね」
私「無意識のうちに、どんどん言い方がきつくなってるっていうのはあるよね。
でもね、その逆も出来るはずなんよ」
彩月母「元に戻らないと、私の気持ちが逆に落ち込んでしまって気分が悪いです」
私「それだけ気がついていたら、大丈夫じゃないかな?
いつもお母さんの心が安定しているってすごく大きいことだよね! 家族の笑顔のために!」
彩月母「本当ですね。
何のために仕事をしているんだろう…こんな精神状態じゃ、この先つらいな…とまで考えていました。」
私「そうだったんだね。大変だったね。
それって身体の外に流せるかな?」
彩月母「今、先生に話しただけでも少し気が軽くなりましたし、モヤモヤの原因が分かりました。彩月にも原因がある、と考えていたんです。」
私「それは良かった!こどもたちにも同じことがあると思うよ。
一日の半分を学校で他人と過ごしてるんだもんね。
いい時もあるかもしれないけど、思うようにならない時、誤解されたり、傷つくこともあると思う。
そういう時はこどもだって余裕がないし、そのことで頭がいっぱいになるよね。」
彩月母「全く自分のことしか考えて無かったです。
そうですよね、外に出れば、こどもにだっていろんなことがありますよね。」
私「そのことにお母さんが気づくだけで、彩月ちゃんはすごく話しやすくなると思うよ。お母さんになんでも相談しやすくなると思うし、頼ろうかな、って思うと思う。」
彩月母「そうだといいです。もう手遅れ…ってことは無いですよね?」
私「大丈夫よ、親子だもん! 彩月ちゃんはお母さんが大好きなんだし。」
彩月母「先生と話していて、自分にとって大事なものがはっきりわかりました。
『嫌でも、この仕事はやめられない』
ってずっと思っていたのですが、今は
『辞めても、いいかな』
と思い始めています(笑)。そう思っただけで気が軽くなりました。」
私「それは良かった! たまには彩月ちゃんと遊びに出かけたら?
何もしないでの〜〜んびり過ごしたら、いろんなお話も出来ると思うよ。」
彩月母「本当ですね。余裕って自然に生まれるものじゃないのかも…。
いろんなものを手放さないと、時間も作れませんよね。」
私「わぁ、いいこと教えてくれたね~~。本当にその通りだよね!」
私はお母さん方がお仕事をされることを反対しているわけでも、否定しているわけでもありません。
むしろ、忙しい中、子育てとお仕事と両立されてすごいな、と思っています。
近くに助けて下さる方がいるお母さんたちには「上手にSOSが出せて、素晴らしい」と思っていますし、お一人で奮闘されているお母さん方には、無理をしないように「出来るだけ、周りを頼ってね!」と最大のエールを送っています。
彩月ママの話は、他のお母さんにも気づきを与えたようでした。
「こどもたちも成長して、自分で勉強したり練習したりする歳になったので、もう、私がそばにいなくても大丈夫かな。
…と思って仕事を始めましたが、結局は私自身に余裕がなくなってしまって、レッスン時間を間違えたり、時間の管理がうまく出来なかったり…。
こどもにたくさん迷惑をかけているな、と感じました。」
「このくらいの時間なら大丈夫だ、と思って仕事を始めました。
でも、結果、家事が適当になったり、こどもたちのことまで手が回らなくなったり…。
初めはそのことに気がつかなくて『なんで、うちの子は自立していないんだろう』とか、こどもたちのせいにしていましたけれど、結局は私に余裕がなかったせいだったんですね。
美味しいものをたくさん作ってゆっくり一緒に楽しく食べる、という環境作りが全く出来ていませんでした。」
お母さん方とのお話に、私自身も自分のことに置き換えながら、気がつくことがたくさんありました。
お母さん方の話を聞いていて、困っていることを一人で抱え込まず、素直に相談してくれることが素晴らしい、と思いました。
そしてこどもたちにも
「ごめんね〜〜、この頃のお母さん忙しすぎて、全然お家のことが出来てなかったね。」
「ごめんね、お母さん今ちょっと余裕がないから、助けてくれる?」
と素直に言えることも。
そう言われたら
「大丈夫よ、お家のことやっておくね。」
「わかった、気をつけてお仕事がんばってね!」
って言う言葉が、こどもたちからも自然に出ます。
もしも
「お母さんは忙しいのに、どうして自分でここを片づけてくれないの?」
「お母さんは忙しいんだから、これ以上は問題を起こさないで!」
って一方的に責め立てたら、こどもだって(言葉には出さないにしろ(笑))きっと心の中では言い分はありますよね。
一見、ピアノ指導とは直接関係ないことだけど、めちゃくちゃ関係あること。 お母さんっていろんな意味で「大事だな」「大きい存在なんだな」と思いました。
追伸:親子バトルを繰り返しながらも練習を頑張っていた彩月ちゃん。
コンクールで予選を通過することが出来ました!
「彩月に救われました。
あの時『ごめんね。お母さん忙しくて何もしてあげられてなかったね』って素直に言えて本当に良かったです。
『これからラストスパート、一緒に頑張ろう!』って言えたことも、今日の彩月の演奏にも救われました。娘の演奏で感動できるって幸せですね。」
と、彩月ママからメールが来ました。
私たちの仕事は「こどもたちにピアノを教える」仕事ではありますが、心の安定や余裕が無かったら、音楽の喜びや感動を音にして伝えることは出来ません。
きっと彩月ちゃんも「お母さんがしっかり、見守ってくれてる」という安心感があって、堂々とステージに上がったんですね。
やはり、お母さんの存在はめちゃくちゃ大きいのです