律くんは小学校2年生。
お母さんもピアノの先生なので、理解力も高く、とても物知りで、よく話してくれる男の子です。
練習をたくさんして自信がある時は絶好調で、「今日はうまいよ~~!先生、聞いたらびっくりするよ!」と自ら宣言することもあり、微笑ましい生徒です。
逆に、少し不器用なところもあるので、あまり練習が出来なかった週はテンション低く、何を言っても悲観的で曇った顔の時もあります。
律くんママから日曜日、思い悩んだメールが届きました。
「お世話になっております。お休みの日に申し訳ありません。
律ですが、促しても練習をしないことが多く、手を焼いています。私自身の体調も悪く、機嫌も気分も悪くなる一方なので、練習を促すこともしたくなくなってしまいました。
本人に、練習しないならピアノを続けなくてもいいし、予定しているステップも出なくてもいい、と言っても、「出る」と言います。
出かけた後にやる、と言って後回しにして、結局やらずじまい、というのが何度も繰り返され、私はもう「後でやる」の言葉を信用できなくなってしまいました。
いったいどうしたらいいんでしょうか。 もう精も根も尽きました。」
と書いてありました。
わかる!
わかり過ぎるくらいわかる。
そして、「苦しい」「辛い」と思う気持ちを吐き出してくれてありがとう、と思いました。
これは、こどもたちみんなに言えることで、世の中のお母さんのほとんどが「わかる!」と共感することだと思います。
とりわけ指導者でもあるお母さんには、そのことが辛く、親としての責任を感じておられたのだと思います。
ピアノの指導者である私たちは、小さい頃から「毎日きちんと練習をする」という事を躾けられている(強いられている?)ので、それが出来ないなら「やめなければいけない」って思ってしまいがちですから、余計に苦しかったんだな、と思いました。
私も共感する気持ちをお伝えしました。
わかるーーー!律くんママ、よくぞ吐き出してくださいました。
かなり共感してくれる人がいるのではないかと思います。
こどもってなんでギリギリまでやらないのか、やらなくても平気なのか、やらないくせに言うことは一人前以上なのか、不思議な生き物すぎて、ついていけないよね。
わたしたちもきっとそんなこどもだったんだと思うけど、そのことを今となってはすっかり忘れてるからねぇ、親、というのも厄介な生き物です。律くんもやる気がないわけじゃないの。
でも今はやりたくない、とか、やれって言われたらやる気がなくなる、とか、こどもサイドにも、多分言い分があるんだよね。私たち大人からしたら、なんてことないように感じるけど…。まずは律くんだけではない、と思うことが大事です。こどもってそんなものです。
自分から進んで練習するときもあれは、あれやこれや理由をつけてやらないときもある。いつもコンスタントに練習をしてくれたら、こちらも楽なんだけど、そう私達の思い通りにはならないよね
律くんママにとって一番避けたいことは何ですか?
例えば
- ピアノ嫌いにはさせたくない
_- このままガミガミババアを続けるのは避けたい
_- 練習しないままピアノを続けさせるのは避けたい
_何か一つ選べる?
そして律くんママが一番望んでいることは何ですか?
- 自分から進んで練習してほしい
_- 楽しくピアノを続けてほしい
_- もうしんどいからピアノをやめてほしい
_この中からも選べる?
律くんママは何一つ責められる立場じゃないし、自分の理想の子育てを貫けばいいこと。
それに合うやり方を見つけてみましょうしかし、母親としてこんなふうに吐き出すところがないとやってられないよね。
お母さん同士で集まって、みんなで吐き出したら、本当に、どす黒い思いや愚痴や積もり積もったストレスが、山のように出てくるのではないかと思います。
いつかこの機会を作りましょう律くんママ、吐き出してくれてありがとう
そして律くんママからお返事がきました。
重野先生へ
返信くださってありがとうございます。最後まで読んだら、涙が出て止まらなくなりました。
自分の体調が不安定で不調を繰り返して、自分の身体なのに上手く行かない。私自身が、思う様に舞台に上がる事も出来ず、不満が溜まっていた事も原因かなと思っています。
〉律くんママにとって避けたいことは何ですか?
「このままガミガミババアを続けるのは避けたい。」に笑ってしまいましたw
先生が挙げてくださった選択肢からだと
「ピアノ嫌いにはさせたくない」です。〉律くんママが望んでいることは何ですか?
これは圧倒的に「自分で進んで練習してほしい」ですね。 でも、確かに時間があまりないのに先に漫画ばかり読んで、早く弾きなさい!って親に怒られていた学生時代を思い出します…(高校生以上だった気もします)人のこと言えるかな…
どうやってやりたい事とやるべき事の見切りをつけていたのやら。お母さん同士で、愚痴吐きストレス発散大会したいです
吐き出していいものか、とても悩んだのですが、先生に聞いて貰えてよかったです。嬉しいです!
律くんママが、一番避けたいものと、望んでいる事を、ふと立ち止まってじっくり考えてくれたことも嬉しかったし、ご自分のこどもの頃を思い出して、どうやってやりたい事とやるべき事の見切りをつけていたのか、と考えてくれたことも、ガミガミババアに笑ってくれたことも嬉しかったです。
少し気持ちが落ち着いたのかな、と思いました。
と同時に、きっと同じ気持ちのお母さんはたくさんいるに違いない、と思いました。
早速3日後の水曜日に2年生以下のお母さん方に、「お悩み相談室」を開くので、実際に会って、お茶を飲みながらみんなでおしゃべりしませんか?とお誘いしてみました。
もちろん律くんママのお話を聞くことがメインですが、声をかけたお母さん方、みなさんすぐにお返事を下さいました。
急遽決めてお誘いしたので、全員参加とはなりませんでしたが、近所のコーヒーショップで、お顔を見ながらゆっくりといろんな話をしました。
水曜日に会った時の律くんママは、ずいぶん落ち着いていろんなことが分析できるようになっていて、こどもの頃、律くんママのお母さんに、何があってもずっと信じてもらっていたことが心強かったことを思い出していました。
この子育ては使えるね、この子育ては真似しようね、これは出来るだけ避けましょう、と一つ一つ自分の経験と現状を考えて、答えを見つけていきました。
そして他のママたちのお悩みも聞きました。
Aママは年中男子が不器用すぎて、やってもやってもちっとも覚えない。なかなか出来るようにならない。この子の頭はどうなっているんだろう…と頭を抱えていました。
Bママは、年中さんの女の子が習っていて、ピアノの部屋が二階にあり、なかなか一人で練習しに行ってくれない、というお悩み。
Cママは全くピアノがわからないから、娘がコンクールを受けるときなどに、適格な提案が出来なくて、聞かれてもわからなくて、どうしていいかわからず、結果がダメだったのは自分がわからなかったせいだ、とすごく落ち込んでいたことを話してくれました。
Aママの、男の子がなかなか弾けるようにならないことに関しては、律くんママがすぐに「うちもです」と共感してくれました。
私が、
「同じ年中でも女の子が5本の指がそれぞれ使えるのに対して、男の子は、右手って言ってもまだ一つのかたまり。まだ5本に分かれてないって思って接してね!
成長も男の子の方が遅いように、それぞれの部分がかたまりで成長していく男の子と、先端がどんどん細分化されていく女の子の成長との違いがあると思うので(全く医学的な根拠はありません)、全然焦らなくても大丈夫。
その分、お耳を鍛えて頭で分かるようにしておきましょう」
と何百人もの導入期のこどもたちを見てきた経験をシェアしました。
そしてBママのピアノの部屋が独立しているので、なかなかその部屋に入って練習しにくい、というお悩みには、
「そうじゃないかな、って思って、リビングにピアノを置くことにしました」
「私もパソコンの部屋が離れているので、あの部屋にはなかなか行きたくないです」
というお母さんたちの貴重な意見も聞くことが出来ました。
そして私も「長女が一人でピアノの部屋に入っていると、お母さんと文歌は何してるのかな?ってすごく気になるみたいだったよ。だからしょっちゅう、様子を見に出て来てた(笑)
結局、私は娘たちのリクエストでレッスン室に拉致されていました。そうしたら娘は安心して練習ができるみたいでしたよ」と娘たちの経験談をお話ししました。
Cママのピアノがわからない、というお悩みには、律くんママが「それが一番のメリットじゃないかな」と素晴らしいメッセージを送り、わからないからこそ感じることをそのまま伝えるだけでいい、とみんなで話しました。
私も全く音楽のわからないうちの主人が、ものすごく娘たちの演奏向上に貢献した話をシェアしました。
みんなそれぞれにいろんな思いを語り、とっても有意義な時間でした。
あっという間に3時間近くたっていて、全員が笑顔になっていました
お母さんがこうして身体の中や心の中にある重い悩みを吐き出し、他の人のお悩みを聞き、共に考えて、小さく砕いてどんどん外に流していくことってとても大事だな、と感じました。
そして、「私のためにこうやって集まってもらってすみません」と言われていた律くんママでしたが、他のお母さん方のお悩みに素晴らしいアドバイスをしてくれましたし、他のお母さん方も救われたと思います。
素晴らしいな、と思いました。
きっとみんな昨日までとは違う気持ちでこどもたちに接することが出来るに違いありません。
だってお母さんたちもとっても楽しい時間を過ごせて、いっぱい笑ったので。
このお悩み相談、zoomではなく、対面でお茶を飲みながらやったんですよ。
急遽企画したにもかかわらず、「行きたい!」と予定を合わせてくれたママがいて、残念ながら来れなかったママも「どうしても行きたかったので、次回は必ず!」と言ってくれました。Zoomとは違って、近くで顔が見れてとても楽しかったです。