ピアノ教室のあるある話
まだ娘たちが小学生だった頃、私は娘たちと毎日バトルを繰り広げていました。
普段は笑いが絶えず、本当に楽しい家族なのです。
私は娘たちに、勉強の事は一切言わないので、ぶつかるのはいつもピアノがらみです。
ピアノがなかったらどんなに平和で、どんなに穏やかな毎日が送れるだろう、と、娘たちも私も思っていました。
多分教室のお母さん方も、生徒たちも思っていますね(笑
でもピアノのお陰でこんなに濃厚で充実した時間が過ごせていることも感じていたので、「もうやめよう」とか、「ピアノ以外の事をやらせよう」とは思いませんでした。
それでも、いざピアノの事になると、私はすっかり感情が制御不能となり、毎日のように火山を爆発させ、誰にも見せられない形相と暴言で、娘たちを罵倒していたのです。
やれ娘たちの態度や顔が気に入らない、だの、素直に言う事を聞かない、だの、娘たちのやることなすことが私の神経を逆なですることばかりのように感じて、思うようにならない時は、口を開けば小言ばかり言っていたのです。
本当はいつも笑って、いつもハグして、いつも楽しく過ごしたいと思っているのに、どうしてこうなったんだろう、と思いつつ、そんな自分がすごく嫌でしたが、なかなかやめられずにいました。
ある日のこと、娘たちとの会話です。
私「お母さんは縫い物が苦手だから、自分たちで雑巾を縫って学校に持っていってくれる?」
長女「わかった!やってみるね」
次女はすごく驚いた顔をして私に言いました。
「え?お母さんでも出来ないことがあるの?」
私は笑って「そりゃ、お母さんにも出来ないことはありますよ」と言いました。
次女は「お母さんは何でもすぐに出来るのかと思った」と小さな声で言い、なんだかショックを受けているようでした。
その様子を見て、私はハッと気がつきました。
いかに普段私が、そんなことを微塵も感じさせないくらい、上から目線で娘たちに言葉をかけ、完璧な母を装って、二人に説教をしたり、出来ない事を責めていたか・・・。
『どうして出来ないの?』
『こんな状態で平気なの?信じられない!』
『どうしてもっと真剣に出来ないかなぁ…』
こんな私の言葉には、必ず最後に『お母さんは出来るのに』『お母さんはやらなきゃ気が済まないのに』という無言の嫌味が聞こえるようです。
「きちんと片づけなさい!こんなだらしない子、見たことない」
「さっさと練習しなさい!一人だけみっともない演奏するつもり?」
「どうして出来ないの?人の話をちゃんと聞いてないからだよ」
どの注意も最初の言葉だけで十分、しかもかなり上から命令しているのに、さらにもれなくついてくる皮肉の山・・・・
娘たちを前にして、私はやり場のない苛立ちを皮肉や嫌味にしてぶつけていました。
私の言い訳は「本当の事だから」「言わずにはいられないから」
でも、本当のことを言うと、私が子供の頃はもっともっと怠け者で、強情で、へそ曲がりで、嘘つきで、かわいげがない子。。。
そのことをいつも母に叱られていたので『自分ほど悪い子はいない』とコンプレックスに感じていました。
でもその頃の私に比べたら、娘たちは上出来なのです。
なのに、私は「私の思っている通りに完璧にやらない」という理由だけでこれだけ責めたてている。
一言も「あなたたちはお母さんの子どもの頃よりうんと頑張ってるよ」とは言わずに・・・
どうしてそんな虚勢を張っていたんだろう、どうして自分のコンプレックスをそこまで隠蔽しようとしたんだろう、どうしてそんなに気持ちに余裕がなかったんだろう、何を恐れていたんだろう。
あまりに大人気ない自分に呆れました。
しばらくして「お母さん、縫い物のほかに何が出来ないの?」と娘たちが聞いて来たので、ここはもう覚悟を決めて、包み隠さず話しました。
私は思いつく苦手なものを全て答え、その間二人も「あ、それ私も」とか「私は、それは出来るかな・・」と言って、興味津々で、しかも満面の笑みで聞き、なんだかとても楽しそうでした。
私も気持ちが柔らかくなり、くすぶっていたマグマも溶けて、身体の外に流れていき、軽くなりました。
私がカミングアウトしてからも、娘たちは私を馬鹿にすることもなく、私が何か注意をしても「お母さんだって出来ないくせに・・」と反抗することもなく、素直に聞いてくれました。
娘たちの方が数段大人でした。
そして
「きちんと片づけなさい!その方がうんと気持ちいいよ!」
「さっさと練習しなさい!終わったら一緒に休憩しよう!」
「どうして出来ないの?じゃぁ、最初からゆっくり考えてみよう」
と言った方が、娘たちも素直に言う事を聞いてくれることも実感しました。
それはけして甘やかしているのでなく、娘たちに媚びているのでもないのです。
そして何と言っても私の気持ちが全然違う。100倍気持ちがいい!
皮肉や嫌味を言った後は、さらにイライラしてもっと悪態をつきたくなり、さらに八つ当たりをしたくなります。
ちゃんと子供をしつけないといけない、いい子に育てないといけない、という義務感が私たちにはあり、無意識に口から出るのは「~しちゃだめ」「~しないとダメ」「どうして~ないの?」という言葉になりがちです。
一呼吸おいて、どうしたら子供が聞く気になるか、行動する気持ちになるか、と考え、逆の立場になった時に、自分自身が言われたい言葉かどうかを考えてみたら、これからも素敵な言葉がけが出来るのではないか、と思います。
この話を書いてから、娘たちに「こんな昔の事、覚えてる?」って聞いてみたら、二人とも覚えていませんでした。
「お母さんが、苦手な縫物に挑戦して、雑巾とエプロンとを一緒に縫ってしまって大笑いしたことは覚えてるけど、あとは忘れた・・・」という答え。
「でも、練習嫌いだったくせに、お母さんに誉められたい、お母さんに認められたいって思いは強かったなぁ」と。
そうだよね、まずそこを認めないと・・・と思いを新たにしました。