ピアノ教室のあるある話
ピアノ歴6年。小学4年生の時にアルコバレーノに入会した陽子ちゃん。
とても音楽的で、歌心があり、将来がとても楽しみな生徒です。
小学校5年生の冬、全国大会まであと2週間という時期でした。
全国大会が近くなって、東京に行くウキウキ気分が先に立ち、全然練習に身が入らない陽子ちゃんに対して、お母さんからリクエストのメールをいただきました。
陽子母「最近の陽子は、ピアノの前には座っていますが、親の私の耳にもただの流し弾きにしか聞こえません。まるで他人事のような演奏です。このまま東京に行くわけにはいかないので、今日のレッスンではガツンと喝を入れてくださいませんか?本人も崖から突き落とされないとわからないと思いますので」
というもの。
私は「わかりました。様子を見てみますね」とだけ返信しました。
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その日のレッスンで陽子ちゃんの演奏を聴いてみたら、やはりただ弾いているだけの演奏で、いつもの集中力がなく、さすがお母さんだな、と思いました。
そこで陽子ちゃんに質問をしてみました。
私「あれ~~?陽子ちゃん。先週お願いした宿題が直ってないね。忘れたの?」
陽子「・・・・」
私「東京に行くまであと2回しかレッスンがないんだけど、来週の最後のレッスンまでにお約束が守れなかったらどうしますか?」
陽子「来週までには・・・やる(蚊の泣くような声で)」
私「じゃぁ、ちょっと先生からお約束が守れなかった時のリクエストしてもいいかな?」
陽子「・・・(無言でうなずく)」
私「来週お約束が守れなかったら、思い切って東京に行くのはやめましょう」
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陽子「・・・・」
陽子ちゃんはびっくりした顔で私を見ました。そして陽子ちゃんの向こうにも、もっとびっくりした顔で青ざめているお母さんを発見しました。
予期しなかった私のリクエストに、崖から突き落とされたのは、陽子ちゃんだけではなく、お母さんも、でした。
ただ、陽子母はここからがすごかった。
この私の提案で陽子母の方に、パチンとスイッチが入ったようで、その後学校から帰ってから、毎日親子でうちに通い、隣の練習室で10時までこもって練習しました。
しかも練習中、お母さんもずっと同じ部屋で練習につき合っていました。
「ちゃんとやっておきなさいよ」と言う事は簡単ですが、つきあうのは本当に大変なことです。
毎日3時間余り、誰でもできることではありません。
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それまでお母さんは口癖のように「私がどれだけ言っても陽子が本気でやらないんです」と、私に訴えていましたが、気がついたらその言葉は聞かれなくなり、「やればやるほど課題が多い事に気づきます」とか、「時間が足りなくて悩んでいます」という言葉に変わっていました。
10時までの練習を4~5日続けた後、ちょっと時間があったので陽子ちゃんの演奏をチェックしてみることにしました。
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最初の音を聞いただけで、数日前とは格段に違っていてビックリしました。
ピアノに向かう姿勢も、目の色も、気合も違いました。
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その場で急にリクエストした事も、すぐ出来て、これにはそばで聞いていた私も、お母さんも、鳥肌が立ちました。
私「陽子ちゃん、何日か練習してみて何がわかったことがありましたか?今までと何が違いましたか?」
陽子「指がすぐに言う事を聞いてくれた。今まで何回やっても出来なかったのに思い通りに弾けるようになった」
と満面の笑みを浮かべて話してくれました。
私「すごいね~~~!先生もびっくりしたよ!今までと何が違ったのかなぁ?」
陽子「やっぱり練習が足らなかった。自分ではやったつもりだったけど、毎日やってみて全然練習が足りてなかった、って気がついた」
お母さんは陽子ちゃんの演奏の変化に驚き、圧倒されて、しばらく言葉になりませんでしたが、「私にもはっきり違いがわかりました。すごいですね~」と話してくれました。
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当初お母さんは、東京に行くことで気持ちが浮ついて、なかなかエンジンのかからない陽子ちゃんの態度が気になって、私にガツンと一発、崖から突き落としてもらうつもりでした。
崖から突き落として、本人に現実を気づかせるつもりが、結果として親子で崖から転落した形になりましたが、お母さんが一緒に崖の下に落ちてくれてよかった。
どうしたら崖から這い上がってこれるかを二人で考え、作戦を立て、力を合わせて這い上がってこれてよかった。
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陽子ちゃんの取り組み方にしか原因を見つけていなかったお母さんが、自分の姿勢にも原因があることに気がついたのです。
一緒に練習時間を過ごすことで、「もう終わったの?」ではなく、「今日もよく頑張ったね」という言葉が自然と口から出るようになりました。
お母さんは「練習するって本当に時間がかかりますね。やってもやってもなかなか出来るようにならないのでやめるにやめられませんでした」と、長時間黙々と出来ないところと格闘する陽子ちゃんに感心しつつ、「昨日より良くなってるから絶対出来るようになるよ、頑張ろう!」と認めて、陽子ちゃんの背中を押し、一緒に出来るようになったことを喜んでくれました。
「目の色」が変わり、結びつきがさらに強くなった二人にあっぱれ!
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