ピアノ教室のあるある話
すずちゃん(小5)は、真面目で、毎日ピアノの前に座って練習はしてくるのですが、集中力が今一つ。
なかなか自分の課題に気づくことができません。
いつも同じ所ばかり注意されるので、前々回のレッスンでは少しお説教タイムがあり、涙が出ました。
どこを注意するのかをしっかり説明して「来週は気をつけてくるんだよ!」と念押ししたので、次は大丈夫だろう、と思っていたら、前回のレッスンでも楽譜上にマークをつけていた5か所が全然直っていませんでした。(残りの3つは出来ていました)
やはりこの子に説教はダメか、と反省し、作戦変更。
気を取り直して、一つ一つのマークに対して質問してみました。
私「これは何を注意されたのかな?」
すず「指使いです」
私「正解!直っていましたか?」
すず 「はい」
私「残念!指使い、間違っていましたよ」
すず「え?・・・・」
私「こっちは何を注意されたのかな?」
すず「音の長さです」
私「またまた正解!直っていましたか?」
すず「はい」
私「残念!まだ違っていますよ」
すず 「・・・」
私「じゃぁ、これは何を注意されたのかな?」
すず「音の間違いです」
私「お~~正解!!!直っていましたか?」
すず「(恐る恐る)直っていませんでしたか?」
私「質問してくれてるの?うん。今日も違ってた・・・」
すず「・・・」
すずちゃんはやるべきことはちゃんと理解してわかっていました。
でも出来ていたかどうかチェックしていなかった、ということがわかりました。
「惜しいなぁ、すずちゃん。そこまでわかっているのに確認できないと意味がないよね!?」
と喉まで出かかった言葉や説教したくなる気持ちを、いったん胃の中に押し戻し、その次の作業に進みました。
私「すずちゃん、練習する時に楽譜見ながら練習してる?それとも暗譜で練習してる?」
すず「暗譜です」
私「あ~~~そうなんだ。じゃあいくら先生が色を変えても気がつかないね!
じゃあ今から少しゆっくりでいいから、楽譜から目を離さないようにして書いてあることを全部確認しながら弾いてみましょうか?」
そして今回のレッスン。
5つのマークは見事全部出来るようになっていました。
前回の作戦は大成功!おうちに帰っても楽譜を見ながら練習してくれたようでした。
しかし、それ以外のところは音の粒は不ぞろいだし、装飾音はいい加減だし、テンポも不安定、強弱はどうしちゃったの?
・・・・・・聞いているうちにたくさんの不足が耳について、またまた説教モードを発症しそうになっていた私。
かろうじて自分を取り戻し、「すずちゃん!5つのマークのところ、全部直ってたね!先生、嬉しいなぁ」と言いながら、
「でもね~、他のところが全然ダメ! せっかく確認できたんだから、その耳もっと生かせないかなぁ・・・」
という喉元まで出かかっている言葉をぐっと飲み込んで、次のステップに移りました。
私「あのね、別の注意をしたいんだけど、言ってもいい?いくつかあるから今日は一つだけ言うね!装飾音を直しましょう」
思いのほかスムーズに装飾音の修正が出来たすずちゃん。
「お~~~すごいね!もう一つ頑張れる?テンポが速くなったり遅くなったりしていたよ」
と、次の課題にまで着手出来ました。
言葉を飲み込む作業は、今の私には少々ストレスがあります。
普段どれだけやみくもに言葉を吐いていたか、と実感する瞬間です。
が、これまでの経験から、説教タイムは「百害あって一利なし」。
与えられた時間でどれだけ生徒が課題を認識し、次週までその重要性を感じ、出来そうだという希望を持って帰るか、ということの方が重要でした。
説教タイムでは、生徒が課題を認識するところまでで終わってしまい、次の2つまで指導出来ていませんでした。
「先生はちゃんと言いましたよ!」という私の自己満足(責任逃れ?)で終わっていた、という事ですね。
言葉を飲み込んで上手くいった事例をもう一つ。
きみちゃん(小2)は「こうやりたい!」という意思をはっきり持っている女の子。
ある意味頑固で融通が利かないのですが、そこが魅力でもあります。
私「ここのところ、弱く、って書いてあるよ。弱くしないの?」
きみ「弱くする」
私「じゃあやってみようか」
しかし、一向に変化なし。何度やっても同じようにしか弾かないきみちゃん。
「きみちゃん、本当に音聞いてる?弱くなってるかな?」
という言葉を、一度胃の中に戻しました。
あまりしつこく言い過ぎると、きみちゃんのプライドが傷つき、テンションが下がって泣いてしまうからです。
そこで、「ねぇ、きみちゃん。ちょっと遊びで、そこのところ強く弾いてみない?」と提案してみました。
意外とうまく弾く事が出来て「それもいいね~~~!この曲きみちゃん作曲だったら『強く』ってマークにかえちゃってもいいね」とワンクッション置きました。
そして「じゃぁ、今度はこの人が書いているように弱く弾いてみようか」と提案してみると、なんと、今度はすんなり弱くできました!
やれやれ・・・
きみちゃんの出来ることから攻めていけばよかったのに、苦手なものを何度もしつこくやらせて、またまた追い込んでいたのかもしれません。
また、「ねぇ、わざとここ下手に弾いてくれる?」「身体にいっぱい力を入れて、肩あげて、がっちがちで弾いてみて!」と提案したり、「ここ、めちゃめちゃ転んで弾ける?」と提案して、そのあと逆の弾き方をリクエストすると、嘘のように弾けることもありますね。
「あなたの身体に力が入っています」「肩下げて!」「音が転んでいます」って言うのは簡単だけど、それだと「わかってるよ」「私は、そんなにしてないもん」「転んでないもん」という気持ちが広がり、余計かたくなになってしまう、きみちゃんです。
ここは段階を踏んでじっくり見守るところ、ここはちょっと飛ばして違う風を取り入れてから戻るところ、ここは出来てなくても見逃すところ、という咄嗟の判断求められます。
生徒の状態の見極めや、注意を促すときの言葉の選択、タイミングを、教える側も日々訓練していかなければいけないと思っています。
相手によって柔軟に声掛けを変え、軌道を修正しながら、生徒自身の行動が変わるレッスンが出来るようになるまでには、まだまだ私自身の修行がいるようです。