姉妹で通ってきてくれている妹の美穂ちゃん(小3)。

ピアノもヴァイオリンもやっている姉妹で、幼稚園まではヤマハで学び、うちに来て3年目になります。

コンクール前の美穂ちゃんのレッスンでの事。

思うように弾けなくて、表情も暗く、質問にもまったく答えない美穂ちゃんに

「なんだか今日は元気がないね~。何かあったの?」
美穂「・・・・(無言)」

美穂母「黙ってたらわからんよ」
美穂「・・・・(無言)」

「じゃぁちょっと休憩しよう。美穂ちゃん隣の部屋で練習していてくれる?」

と言って、美穂ちゃんと二人で隣の部屋に行きました。

美穂ちゃんはその時泣いていましたが、

「後で先生が聞きに来るから、その時までにここの部分をこれくらいの速さで弾けるように練習しておいてね!」

と言い残してレッスン室に戻りました。

レッスン室に戻ってお母さんに事情を聞くと、この1週間ずっとこんな調子だ、とのこと。

もうコンクールまで日がないのに、こんなことでは結果は見えている
他の子がどんどん結果を出している事をついつい本人にも言ってしまった
どれだけ練習しても全然できるようにならない
親として焦ってしまい、どう声をかけていいのか分からない

と、悩んでおられました。

母親としてその気持ちが手に取るように分かるので、私の体験談を少し話しました。

私も娘がなかなか弾けるようにならない、何回やっても出来ない時に、腹を立て、

「何回言ったらわかるの?」「やる気がないなら止めなさい!」「どうしてできるまでやらないの?」

とヒステリーを起して、私の方が泣きたい気持ちで叫んでいました。
親としての焦り、絶望と失望が渦巻いて、自分がコントロールできない状態でした。

ある日、そんな自分の状態はまるで、「デパートのおもちゃ売り場で、子どもがひっくり返り、『あれ買って~~~~!!』と泣き叫んで駄々をこねているのと同じだ」ということに気づきました。

出来なくて焦っているのは当の本人なのに、その横で大の大人が

「落ちたくない」「どうして頑張ってくれないの?」「どうして他の子みたいに上手く弾けないの?」「どうして弾けない事が気にならないの?」「どうして必死で練習しないの?」

とさらに激しくわめいてひっくり返る。

私はそんなことも気づかずに、娘たちを責めていたのか、と自分自身にがっかりした経験があったことを、話しました。

美穂母は、私の話をずっと同感しながら聞いてくれて、最後に「私も責めていました」と言い、「考えてみたら、あの子はこの一年ずいぶん成長していたんです。でもその成長じゃ足らない、と勝手に私がハードルを上げていたんですね」と、心の内を話してくれました。

「今、隣の部屋で美穂ちゃんが何をしているかはわからないけど、もしかしたら気持ちをリセットして練習してくれているかもしれない。それだけでも偉いと思わない?」

美穂母「そうですね。一度リセットする事も必要ですね」

「私たちのためにもね!(笑)」

お母さんの胸のつかえを少し取り去ったところで、私は一人で隣の美穂ちゃんの様子を見に行きました。
美穂ちゃんは私に言われた課題を一生懸命練習していました。

さっきまでの下を向いた美穂ちゃんはすっかり姿を消していたので、私もその事には一切触れませんでした。

そして、美穂ちゃんの演奏を聞いてびっくり!弾けるようになっていました。

「すごいねぇ~~、美穂ちゃん、頑張ったね!どうやって練習したの?」

美穂「早く弾けるように、ここだけ取り出して部分練習して・・・これが出来たら次に行って・・・」

はっきりとした言葉で元気に、嬉しそうに答えてくれました。

「ねぇ、これをお母さんに聞いてもらう?呼んでこようか?」

美穂「うん!(笑顔)」

そして何も知らないお母さんが部屋に入り、美穂ちゃんの見違えるような演奏を聞き、

美穂母「わぁ、どうしたん?できたじゃない!すごい!!」

と、すぐさま歓声をあげました。

私はそのお母さんの笑顔が嬉しくて「よかったね~~~!」と美穂ちゃんの方を見たら、美穂ちゃんが泣いている。
びっくりしてお母さんを見たらお母さんも泣いていました。

しばらくして、お母さんが感激して泣くのを見て美穂ちゃんも泣いたんだという事がわかりました。

この姿に私も胸が熱くなりました。

美穂ちゃんの部屋に入る時のお母さんの気持ちの中には、

「まだ出来ないの?」「いつになったらできるの?」「いったい何してたの?」

というセリフはなかったはずです。

どうにかしたい、と一番思っているのは美穂ちゃんであり、それをサポートしよう、信じよう、と気持をリセットして部屋に入ったのではないでしょうか。

子どもを散々叱り飛ばした後で、なかなか気持ちのリセットが出来ないのは大人の方です。
子どもは怒られたことも忘れて「お腹がすいた~~。今日のご飯なに?」と聞いてきます。

本能的なリセット機能が付いていると思うのですが、大人はなかなか気持ちの切り替えがうまくいかないものです。

でも、美穂母を見ていて、リセット機能の高さと惜しみない承認の言葉、そして素直な感情表現に感心しました。

あ~~これで美穂ちゃんも笑顔で頑張れる、お母さんをもっと喜ばせてあげよう、と思っているに違いない、と確信し、私も幸せな気持ちになりました。