ピアノ教室のあるある話
萌華ちゃんは小学校2年生。
習い事がたくさんあって、ほとんど毎日学校帰りにいろんな習い事に行っている超忙しい小学生です。
ピアノはそんな習い事の中の一つですが、お母さんの口癖は「ピアノを最優先で考えています」です。
そして年に数回コンクールにも挑戦しています。
ある日のレッスンのこと。
私「さぁ、今週は練習して来てくれたかな?」
萌華「はい」
私「それは楽しみだね!じゃあ弾いてみて!」
あれ?全然先週と変わってない・・・。
音の長さやバランス、注意しようと思うところはすべて楽譜にすでに書いてあるのです。
私「もえちゃん、今のバランス聞いてた?良かった?」
萌華「・・・・(首をかしげる)」
私「もえちゃんが練習する時何を気をつけて練習してくれたかな?」
萌華「バランス・・・・ここの音の長さと・・・・・(書いてあることを読み上げる)」
私「そうだよね。じゃあバランスを気をつけるために、今週もえちゃんがお家でやった練習って、どんなのか先生に見せてくれる?」
萌華「うん」
そして一回最初から最後まで両手で弾き通して、私の方を見ました。
私「まだ練習は終わってないよね?今のでバランスが良くなったの?」
萌華「まだ・・・」
私「そうだね。ここをお家だと思って、もえちゃんが普段練習している事を聞かせてね!」
萌華「うん」
そしてまた最初から最後まで弾き、途中間違ったところがあったので、そこを直して・・・・
また最初から最後まで弾き・・・5回くらい弾いたところで、また私の方を見ました。
私「出来たの?バランスよくなった???」
萌華「多分・・・」
私「そうか。先生は今もえちゃんの練習を聞いていて、どこでバランスに気をつけているのか、最初と最後で何が違うのか、ちょっとよくわからなかったんだけど、今の練習で何が出来るようになったの?」
萌華「ここ間違っていたから練習して出来るようにした」
私「そうだったね!それはわかったよ。でも、バランスは?」
萌華「あ・・・忘れた」
私「ねぇ、もえちゃん、最初の音だけ弾いてくれる?」
萌華「はい」
もえちゃんは最初の音だけで止まることが出来ず、また全部弾こうとしたので、いったん止めて、もう一度、
「最初の音だけだよ。最初の音だけを伸ばしておける?」
もえちゃんにとってそのリクエストが意外に難しいもので、最初の音だけで止まるまでに数回練習しました。
そして最初の2つの音(左右一つずつ)を鳴らしたところで質問しました。
私「もえちゃん、今、右と左、どっちの音が聞こえる?」
萌華「左手の音」
私「そうだね。もえちゃんが出したいのはどっちの音?」
萌華「右の音」
私「じゃあ、右手の音が聞こえるように弾いてみてくれる?」
数回の練習を経て、いいバランスで弾けるようになり・・・
私「お~~~、出来たじゃん!これがバランスを聞く練習ね!すごく上手にバランスのいい音が鳴らせてたね。さっきのもえちゃんの練習と同じだった?」
萌華「違う・・・」
私「そうだよね。何が違った?」
萌華「最初しか弾かなかった」
私「そうなんだよ。いいところに気がついたね!
あのね、もえちゃん。さっき最初から最後までいっぱい弾いてくれたけど、あんなにいっぱい弾いたら一つ一つの点検が出来ないの。
今、たった一つの音を弾くのでもなかなかうまく弾けなくて何回も練習したけど、その分良く音が聞こえるようになったし、どのバランスがいいか自分でちゃんとわかるようになったよね。先生はそんな練習を毎日おうちでしてほしいなぁ!お願いできる?」
萌華「はい!」
私「じゃあ、今度はもうちょっと増やすよ。1小節だけ弾いてみて!」
萌華「はい!」
その後もなかなか1小節で止まれないもえちゃん。いかに普段、無意識に弾いていたかがわかりました。
レッスンの最後に質問をしました。
私「もえちゃん、よく頑張ったね!今日のレッスンどうだった?」
萌華「疲れた・・・」
私「そうだよね~~~。よく頑張ったもんね~!」
萌華「でもちょっとしか進まなかった」
私「ホントだね。でもお耳が良くなったね!バランスが聞こえるようになったよね!」
萌華「うん!」
私「毎日最初から最後まで弾くのは本当は練習じゃなくてね、あれは『確認』してるだけなの。今日レッスンで一緒にやったのが『練習』ね!」
萌華「わかった!やってみる!!」
そして次の週のレッスン。
私「さぁ、はじめましょう!先週のことやってみた?」
萌華「やった時もあったけどやらないときもあった・・・」
私「あら、そうなの?じゃあやってみて!」
そしてすっかり前と同じ状態に戻っていたもえちゃんの演奏を聞きました
私「もえちゃん、先週何を一緒にやったっけ?」
萌華「バランス」
私「そうだよね!よく覚えてたね!おうちでやってみた?」
萌華「やったらできた」
私「そうなんだ。でも今は出来てなかったね・・・どうしたんだろう」
萌華「わからん・・・」
もえちゃんに練習したことをいろいろ聞いてみました。
もえちゃんのレッスンは水曜日。
先週のレッスンが終わってから忙しくて練習する時間がなくて、日曜日に練習をしたそうです。
「その時は一音一音バランスに気をつけて最後までやった。そして月曜日と火曜日は普通に練習した」(本人談)
私「なるほど、今週は3日ほど練習したんだね!そして日曜日は先週のレッスンでやった事をもえちゃんは試してくれたんだね!月曜日と火曜日はどうしてバランスのことをやらなかったの?」
萌華「日曜日に、もう出来たから」
私「あ~~そうか。日曜日に練習した時に出来たから、月曜日からは他のこと練習しようと思ったんだね!」
萌華「うん」
毎日いろんな習い事に追われて、それぞれの宿題をこなすので精一杯なもえちゃん。
ピアノを始めて3年目になるけど、コンクールの結果はもちろん、教本もあまり進まず、レッスンも停滞気味でした。
そこで私はもえちゃんに練習のことについて少しお話をしました。
私「もえちゃん、日曜日に頑張った練習が100円だとするよ。普通、貯金箱に入れたらずっと貯まっていくじゃない?取り出さない限り減らないよね?」
萌華「うん」
私「そうなんだよ。でもね、練習ってやり始めの頃は100円じゃなくて、実は氷なの。」
萌華「氷?」
私「そうなの。だからお外に置いてたらとけてなくなっちゃうの。もえちゃんが日曜日に作ってくれた氷、今日までもたなかったってことなの。どうしたらいいと思う?」
萌華「毎日氷を作る」
私「そうだよね!そしてその氷が大きければ大きいほど、とけにくいよね!」
萌華「じゃあ、毎日練習するってこと?」
私「(がくっとずっこけそうになるのをこらえながら・・・)そうだね。でないと氷はすぐになくなっちゃうんだよ」
萌華「ふ~~~ん」
私「いい事を教えてあげるね!一週間のお天気って毎日違うでしょ?暑かったり寒かったりするじゃない?
練習も同じなんだよ。もえちゃんの場合、水曜日がレッスンだから、水曜日が一番寒いの。そしてだんだん暖かくなるの。
ねぇねぇ、寒いところの氷を置くのと暖かいところに氷を置くのとどっちが長持ちするの?」
萌華「寒いところ」
私「そうだよね!だから水曜日が一番寒いから、今日帰ってすぐに練習をするとなかなか氷がとけないんだよ。
この間もえちゃんがやってくれたのは日曜日だったでしょ?それって日曜日よりずいぶん暖かくなってるよね?損じゃない?」
萌華「じゃあ、水木金と練習する」
私「いいねぇ~~~!それだとまだ大きな氷がとけずに残ってるかもしれないね」
萌華「水曜日まで残る?」
私「さぁ、それはもえちゃんがどれくらい大きな氷を作ったかにもよるんじゃない?そして土曜日からも少しずつ練習したら残るよ」
萌華「そうだ。毎日氷を作るんだった・・・」
私「そうすると、どんどんできることが増えると思うよ」
萌華「うん、やってみる!」
私「やってみて!毎日氷を一生懸命作って練習していたら、知らないうちに氷が100円玉に変身するんだよ」
萌華「本当?」
私「そうそう。そうなったらもうとけないから、どんどんたまっていくの。やればやるほどうまくなるんだよ。」
萌華「いつぐらいに?」
私「どうかなぁ・・・。まずもえちゃんが毎日練習するようになって半年くらいはかかるかな・・・3年生になった時には貯金が出来るかもしれないよ」
萌華「やった~~!」
まだ何もやっていないのに大喜びするもえちゃんを見ていたら、その後もさらに大変だということを、今わざわざ言わなくてもいいかな、と思いました(笑)
順調に100円玉貯金出来る時もあれば、練習の仕方が悪いと一気にその貯金がなくなってしまうこともあります。
100円では全然足らなくなる時もある・・・。
借金に追われることもある・・・。
いくら貯金があってもそれだけじゃダメだと気がつく時も来る・・・。
しかも、今の忙しい生活を続けていたら、なかなか毎日練習することは難しそうなのです。
でも、まずは一番気温の低い日から練習を始めること、そして一週間の練習を少しでも形に残す体験をすることがスタートです。
そして氷を100円にするまで続いたら素晴らしい。
その先の大変さを語るよりも、もしも、もえちゃんが挫折するまで100円貯金が続けられたら、まずはその快挙を誉めなければ!
もえちゃんの生活自体を変えることが出来たら、もう少し簡単に結果が出せるようになるかもしれませんが、こうやってあの手この手で考えることもレッスンの楽しみの一つ!
次のレッスンでのもえちゃんの変化を楽しみにしています。