ピアノ教室のあるある話
いつも熱心にレッスンに通ってきてくれる楓ちゃん(小4)。
親子でとても熱心、そしてチャレンジャーです。
私「あれ? 今日はなんか、疲れてるの?」
楓「・・・(首を横に振る)」
私「そうか、それならよかった。でも、私の耳には何となく音が疲れて聞こえたなぁ。もう一回、弾いてみる?」
そして、もう一回弾いてくれましたが、やっぱりいつもの楓ちゃんの「生き生きとした音」じゃない。
とってもまじめな楓ちゃんなので、きっと今週もピアノの前に座り、いつもの練習をこなしてくれたんでしょう。
私「ねぇ、楓ちゃん。今週、練習していて一番に嬉しかったことは何?」
と聞いてみました。
楓ちゃんが何も答えられずに下を向いていたので、ちょっとお話をしてみることにしました。
私「楓ちゃんが一番、好きなご飯のメニューは何?」
楓「ハンバーグ」
私「お~~~、いいねぇ。美味しいよね!
お母さんが『今日はハンバーグよ』って言ったら、なんかウキウキするよね~」
楓「うん」
私「もし、毎日ハンバーグだったらどう?
お母さんが『明日も明後日も、ず~~~っとハンバーグよ』って言ったら嬉しい?」
楓「それはちょっと・・・・」
私「そうだよね。それはちょっと、だよね。どんなに好きなものでも、どんなに心がワクワクするものでも、毎日だと飽きちゃうの。
それはピアノの練習でもそうなんだよ。毎日ワクワクしながらピアノの前に座るには、ちょっとした工夫がいるんだよ」
楓「ちょっとした工夫?」
私「そう。
もし、お母さんが『今日は一体、何のハンバーグだと思う?』って言ったら『何かな?』『どんな味かな?』って思わない?
その中には苦手な味もあるかもしれないけど・・・何が違うのか当ててみよう、って思わない?」
楓「思うかもしれん・・・」
私「ハンバーグに飽きるまでは『明日も明後日も、ず~~~っとハンバーグ』って言われたら嬉しいかもしれないけど、ず~~っと同じだと人間は飽きちゃうから、ちょっとずつ変えていくことも大事なんだよ。
楓ちゃんはいつもどの本から練習するの?」
楓「最初にハノンやって、スケールアルペジオをやって、それからバスティンの教本をやって、やさしいインヴェンションをやって、ル・クーペをやって・・・」
と順番に教本を見せてくれました。
私「わ~~~、すごいね。毎日これだけの本をやったら、めちゃめちゃ時間がかかるんじゃないの?」
楓「はい」
私「えらいね~~。毎日この順番で、練習を積み重ねているんだね。素晴らしい!
だけど毎日、同じメニューで飽きてない?」
楓「わからない・・・」
楓ちゃんは「飽きる」ということが、よくわかっていないようでした。
私「楓ちゃんは『よ~~し、今日はここを練習するぞ! ここが弾けるようになりたいな』と思ってピアノに向かってる?
それとも『今日も最後まで頑張って、全部の本を弾こう!』と思ってピアノに向かってる?」
楓「あとの方です」
私「なるほど、そうなんだね。
先生はいつもご飯を作る係だから、食べてくれる人が
『わ~~、今日のご飯は何かな? どんな味かな?』
って食べてくれると、めっちゃめちゃ嬉しいの。
『今日はこれが美味しかった』『また食べたい』
って言ってもらえると、百倍やる気が出るんだよ。
もちろん『今日も残さずに食べよう』って思ってくれるのも嬉しいんだけど・・・どんなものでお腹がいっぱいになったか興味を持ってほしいし、喜んでもらえたかどうか、ってことが気になるの」
楓「・・・・・」
私「ピアノの練習ってね、終わった時に『ここが、できるようになった!』がいくつあるかがすごく大事だと思うの。
それはご飯の『美味しかった』と同じね。いくらお腹がいっぱいになっても、『これが美味しかった』っていうのが無いと、『明日は、どんな美味しいご飯が食べれるのかな?』ってワクワクする気持ちが薄くなっちゃうんだよね。
今週の楓ちゃんの『ここが、できるようになった』を教えてくれる? いくつでもいいよ」
楓「(楽譜を指さして)ここを練習したの。
でも、できるようになってるかどうかはわからない・・・」
私「あ~~、ここは難しいよね。まだ、できてないの?」
楓「前よりは弾けるようになったけど、まだ弾けてない」
私「素晴らしいね。ちゃんとわかってるんだね。
どうすれば、もっと確実にできるようになるの?」
楓「もっとたくさん練習する」
私「なるほど、そうか・・・。今のやり方だと量が少ないの? 時間が少ないの?」
楓「たぶん、両方・・・」
私「そうなんだね。じゃあ、先生がひとつ提案してもいいかな?」
楓「はい」
私「『一日一冊だけ、それも気になる部分だけ練習をする』
っていう日を作ってみたらどうかな・・・」
楓「他の本は、やらなくてもいいの?」
私「一日くらい大丈夫だよ。
『食べ放題のバイキング』に行って、好きなものをお腹いっぱい食べてくる日があってもいいんじゃない?
そうしたら、楓ちゃんが困っていた練習時間と練習量がたっぷりとれて、とことん練習できるよ」
楓「やってみる!」
私「うん、やってみてね!
来週は『ここが、できるようになった!』がたくさんあるといいね」
楓母「先生、他の本はやらなくてもいいんですか?」
私「一週間のうち1日とか2日とかだけ別のメニューにするのでも、気持ちがリフレッシュするかもしれないよ。
楓ちゃんはまじめだから、練習パターンが崩せなかったのかもしれないね。たまには新鮮な気持ちでピアノの前に座る工夫も、大事よ!」
あまり練習が好きではない茜ちゃん(小5)。
チェルニーを弾き始めたけど・・・あまりにも間違えて、何度も弾き直すので、弾きながら途中でため息が出てしまいました。
↑私に、ではなく、茜ちゃんに(笑)
私「どうする? 今日はここまでにしておく? それとも最後まで弾く?」
茜「家ではもうちょっと弾けてたのに、間違いすぎる・・・」
私「そうなんだ。私が横に座ってるだけでも、もう家とは違うもんね」
茜「ここから先は家でも弾けてなかったから、もっと弾けない」
私「そうなんだね。だったら、今日はここまでを一緒に練習しようね」
茜「はい」
私「茜ちゃん、例えばここの部分、どんな風に練習してるの?」
茜「できないところだけを取り出して、ゆっくり弾いています」
私「お~~いいね。ゆっくり弾けたらどうするの?」
茜「少しずつ速くしていく」
私「なるほど。それでも、できるようにならないの?」
茜「できるときもあるけど、今日はできなかった・・・」
私「そうだね。じゃあ、ここをいっしょに練習しようね!」
一緒に練習するときの茜ちゃんは、とても素直で「もう一回!」「あと5回!」って声をかけても一生懸命、やってくれました。
そして20分くらいかけて、弾けなかった部分が目標のテンポで5回連続で弾けるようになり、「やったね~~、出来たね~~」とハイタッチしました。
私「ねぇねぇ茜ちゃん、今の練習は大変だった?」
茜「ぜんぜん、大変じゃなかった」
私「そうか! それはお家では難しいの?」
茜「家だと、なかなかできない・・・今みたいにできるようにならない」
私「そうなの? 今は私が横にいたから、一生懸命頑張ってくれたんだよね? そのエネルギーがお家では出ないのかな?」
茜「はい。今みたいには、できない。それに家だとこんなに何回も弾いてないし、回数を数えたりするのも面倒くさい」
私「なるほど。家だと量が違うんだね。
先生は回数ならいくらでも数えてあげるんだけどな・・・それはお母さんには頼めないの?」
茜「頼めません」
↑即答で(笑)
私「茜ちゃんができないところは、他の場所でも今と同じようにやっていったら、できることばっかりなんだけどな・・・。
でもきっと、その練習があんまり好きじゃないんだよね。
今日は先生と一緒だったから頑張ってやってくれたけど、一人だとやりたくないんだよね・・・」
茜「うん。嫌い」
私「そうだね・・・。茜ちゃんの苦手な野菜ばっかりがお皿の上に乗ってたら、ご飯を食べる気なくなるよね。わかるわかる。
ねぇ、茜ちゃんの嫌いな野菜は何?」
茜「人参とピーマンと、なすびと・・・・」
私「え~~、いっぱいあるんだね(笑)
じゃあ人参で考えようか。お皿の上に人参がいっぱい乗ってると、食べる気しないよね?
でも、小さく刻んでハンバーグの中に入ってたり、他の野菜と一緒にポタージュスープになってたりしたら、人参だってわからずに食べるんじゃないの?」
茜「食べると思う」
私「人参だって、すぐに一本丸ごと食べれるようにならなくてもいいんだよ。
今まで食べられなかったものに、『このやり方なら、少しは食べられる』とか『これなら、嫌いじゃない』っていう経験を積んで、だんだんと苦手意識が薄くなったら、それでいいの。
一気に『人参大好き人間』になって欲しいとは、思ってないの。
さっきね、一緒にゆっくりやって、ちょっとずつテンポ上げて、できるまで何回も数を数えて・・・ってやったでしょ?
1小節だけだったけど、できるようになったでしょ?
そういうことの積み重ねが大事なの。・・・わかるかな?」
茜「わかる」
私「さっき、ここの一小節を練習するのに、どれくらい時間がかかったと思う?」
茜「20分くらい?」
私「そう、20分。
一日一小節でいいから、20分練習できたら『できるようになった』が一週間で7つできるよ。それだけでもすごいことなんだけど」
茜「できるかも・・・」
私「一人で練習していて、テンションが上がらなかったら、先生の事を思い出してね!
『もう一回』『あともう少し』・・・って言ってるって、思ってね! 先生の等身大のパネルでも作ろうかな(笑)」
茜「え? それはちょっと怖い・・・」
二人で大爆笑しました。
私「そして、できるようになったところを色で塗りつぶしてみてね。だんだんその場所が増えていったら、ワクワクするよ」
と言って茜ちゃんの楽譜をコピーして、色塗り用に渡しました。
楓ちゃんも茜ちゃんも、やる練習は同じなのです。
少し、見方を変えることで同じことでも新鮮に感じたり、ワクワクさせたりする工夫をしないと、どうしても人間は飽きますよね。
私は、娘たちが中学校の頃は毎日お弁当を作っていて、ネタが尽きたり、同じものしかおかずがなかったときは、入れるお弁当箱そのものを変えていました(笑)
同じものでもお皿が違うと、違うものに見えたりするものです。
食べたら同じ味なんだけどね・・・。
毎日、同じことを繰り返していても「いかにワクワクしながら過ごすか」・・・という工夫はとても大事です。
同じ曲を弾いていて、新鮮さが無くなった時も、視点を変えたり、練習の仕方を変えたりして、新しい発見があると、またワクワクしてその曲に向かえるものです。
それでなくても大変な練習。
孤独だし、意思の弱い自分や「怠け虫」との闘いもあります。
気持ちも身体も前向きに頑張れているときはいいですが、そうでないときは・・・「少し練習パターンを変えてみる」とか、「zoom練習室で、お友達からパワーをもらう」とか、「別の場所で練習してみる」とか、少し新鮮さが無くなった日々の練習に、新しい風を取り入れるのも一つのやり方です。
音楽も人づきあいも、日々の食生活も、新鮮さが命!
目を輝かせて毎日過ごしたいものです。
活きのいいお魚を選ぶ時は目を見ますよね。
私もいつもレッスンの時には、まず生徒たちの目を見ます。
目が澱んでいる時や曇っているときには、少しお話をしてからレッスンを進めますが、活きがいい目をしているときは、すぐに弾いてもらいます!
ワクワクする瞬間ですね!