今日も、毎日の練習は嫌いだけど、歌は好き、音楽が好き、という生徒たちの話です。
瑠璃ちゃん(小3)は、妹の美蕾ちゃん(小1)と一緒に、一年半前から隔週でレッスンに通ってきてくれています。
瑠璃ちゃんに「毎回30分のレッスン分の練習をさせるのが大変だ」…とお母さんは言われていて、「こんな調子じゃ、今後のレッスンをどうしたものか」…と悩んでいました。
妹の美蕾ちゃんは、「できないところを自分でコツコツ練習する」ことができるのですが、瑠璃ちゃんは「ひらめきタイプ」なので、毎日の地味な練習にはあまり心が躍らないのです。
そこで私は
「別に何もやって来なくても、一緒にここで音楽の勉強してもいいし、初見で連弾してもいいし。
瑠璃ちゃんは歌がうまいから、ここで一緒に、歌を歌ってもいいよ」
と提案しました。
さらに『童謡歌謡フェスティバル』が隣の市で開催されることを見つけたので、「面白そうだから、ふたりで出てみたら?」と勧めました。
ふたりは大喜びで「やってみたい!」といい、ピアノのレッスンそっちのけで曲選びに取り掛かりました(笑)
そして姉妹が選んだ曲は、「待ちぼうけ」。
「こんな古い曲を歌うの? 他にも色々と、楽しそうな曲があるんじゃないの?」
って思いましたが、お母さんの話によると、「ふたりの意見が一致したのは、この曲だった」ようで、この曲でフェスティバルへ参加することを決めました。
絵の得意な瑠璃ちゃんに、歌詞がわかるような大きな絵を描いてもらったり。
どの歌詞がいちばん楽しいのか、いちばん暗いのか質問したり。
その都度にいろんなアイデアがわいてきて、練習が毎回、打ち合わせのようでしたが、瑠璃ちゃんも美蕾ちゃんも、楽しそうにはしゃいでいて…。
その顔を見ていたら「まぁいいか、この笑顔がいちばんだよね」という気持ちになりました。
別のレッスンでのこと。 明里ちゃん(高1)は、笑里ちゃん(大2)と栞里ちゃん(中1)の3姉妹の真ん中。
とってもおしゃべりが上手で、笑顔が素敵な、ハッピーオーラ全開の女子高生です。
でも、毎日ピアノの練習をすることは大の苦手(笑)
その日もぜんぜん練習していなかったので、レッスンはおしゃべりの時間と化していて、「そういえばね、瑠璃ちゃんと美蕾ちゃんが、童謡フェスティバル出ることにしたんだよ」と話しました。
「妹の栞里も、歌が大好きなんですよ~~」
「いつも、お風呂で歌ってるんです」
と言っていたので、
「じゃあ栞里ちゃんと明里ちゃんが歌って、笑里ちゃんが伴奏したらいいじゃん。三姉妹で出たらいいじゃん!」
と誘いました。
いったい、私は何を教えているのか…。
「童謡フェスティバル、出てみようと思います」とお母さんから連絡をいただいたのは、その数週間後。
曲は「見上げてごらん夜の星を」でした。
「童謡フェスティバル」の前日、ちょうど教室の「弾きあい会」の日だったので、その前に二組を集めて、ステージでリハーサルをしてみることにしました。
私が明里ちゃんたち三姉妹の演奏を聞くのは、その時が初めて(笑)
初めて聴くふたりの歌声が、あまりにも素直で、きれいで…。
そのことに驚いて、涙が止まらなくなりました。
そして難しい伴奏に悪戦苦闘していた笑里ちゃんのところにかけより、「この音はいらないよ」「ここは弾かないことにしよう」とチーム・アルコバレーノが一気に動き出しました。
歌は教えられないけど、ピアノのことなら役に立てる!
やってもやっても弾けるようにならなくて、辛く暗い表情だった笑里ちゃんを救うために、知恵を絞りました。
瑠璃ちゃんと美蕾ちゃんのこどもらしい元気な歌声もまた、ホールに響き渡り…。
この前日のリハーサルの時間だけでも、「参加することにして良かった~~~、なんて音楽って素晴らしいんだろう」と、すでに満足感いっぱいだった私。
弾きあい会に集まってきていた生徒たち、お母さん方の心にも、この二組の「音楽が好き」「楽しい」という気持ちは、ど~~んと届いていたと思います。
そして、フェスティバル当日。 すべてのリハーサルを聴き、本番もすべて聴きましたが、不思議なくらい、ぜんぜん飽きないのです。
楽しくて仕方がない時間でした。
瑠璃ちゃんと美蕾ちゃんの伴奏者として私もステージにも上がり、3人で「待ちぼうけ」を演奏しました。
本番での明里ちゃんたち三姉妹の歌声には、涙が止まりませんでした。 心配した笑里ちゃんの伴奏も、とってもきれいで、その音にも感動。
どの参加者の歌声も本当に素晴らしく、全員がブラボーで、このフェスティバルに出られたこと、この時間を共有できたことこそが幸せでした。
毎回、参加されている常連さん。
オペラをされている人。
合唱団の人。
家族で集まって参加されている人たちもおられて、その気持ちがよくわかりました。
「童謡歌謡って素晴らしい!」 音楽は不要ではないということを確信し、「歌い継いでいきたいな」と思いました。
フェスティバルでは、演奏終了後にステージ上で司会の人から少しだけ質問を受ける時間もありました。
大人や家族での参加が多いため、インタビューには大人が代表して応じることが多い中、瑠璃ちゃんと美蕾ちゃんはその中では最年少。
しっかりと自分の言葉で、笑顔で答えていました。
すごいことです!
とても自然で、自己肯定感が高く、ハキハキと弾んでいる声を聞いて、「素晴らしい子育てをされているなぁ、瑠璃ちゃんママはすごい!」と感心しました。
私も鼻が高かったです。
三姉妹のインタビューでは明里ちゃんが代表でしゃべり、「台詞ではない、自然な会話のキャッチボールが素晴らしい」…と、これまた親バカ全開で誇らしく思いました。
結果は、26組中7組だけが入賞。
瑠璃ちゃんと美蕾ちゃんは有難いことに、名前が呼ばれ、6位入賞!
そしてなんと三姉妹は、第1位でした。
あまりにも上出来で、夢みたいな結果に驚いて、みんなで抱き合って喜びました。
彼女たちは、歌がうまいからコンクールに出たわけでも、賞がとれそうだからコンクールに出たわけでも、認められたいからコンクールに出たわけでもありません。
もちろん歌のレッスンだって、何も受けていません…。
ただただ、「やってみたい」「楽しそう」という、ワクワクした気持ちと好奇心でステージに上がり、その気持ちがステージから客席に伝わった。 それだけ、でした。
まさにビギナーズラックではありましたが、きっとピアノのコンクールも同じなんだと思うのです。
結果を気にせず、「この曲が好き」「楽しい」と思って演奏をしている人の姿を見ると、ホッとします。
それが、原点だからですね。
そして無欲の強さも感じました。 私にとって歌は専門外なので、何一つ指導もせず・・・ 笑里ちゃんの伴奏を手直ししたくらいで、後は完全に応援団。
生徒たちのステージを目を細めて喜び、歌声を絶賛し、応援し、一員であることの幸せをかみしめる。
それがいちばん、良かったのかもしれません(爆笑)
みんな「どうやってステージを作るか」「どう歌うか」…その工程も楽しんでいて、笑顔にあふれていました。
それはピアノの練習でも同じことです。
ワクワクすることを見つけるって、大事ですね。
練習嫌いだからピアノが下手だ、才能がない…ということにはならないし、ピアノのレッスンを受ける資格がないことにもならない。
練習嫌いは、指導する側にも親にとっても悩みの種かもしれないけど、それは決して致命的なことではありません。
その代わり、彼女たちは「歌心」という素晴らしい宝物を持っていて、それで充分生き延びていくことができます。
ピアノの練習時間や、教本の進み具合、コンクールの結果だけで見ると、一見は劣等生のような彼女たちでも、自分たちの得意なこと、好きなことに磨きをかけて演奏をしたら、聞いている人にはその思いが伝わって、感動が広がっていくのです。
そして、「自分の気持ちを、自分の言葉で素直に話すことができる」という宝物も持っています。
私は、どんな生徒にも、自分の中にある宝物を見つけて輝いて欲しい…と思っています。
それは、他人との比較ではなく、自分の中にある宝物を探して、光り輝くこと。
私はピアノのレッスンを通して、みんなの宝物を探し、みんなはそれを取り出して磨いていく。
それだけでも「ピアノをやって良かった」、って思う経験がたくさんできると思います。
それが指導者の仕事だと思っています。
今回も、そのことを生徒たちが証明してくれました。
瑠璃ちゃんと美蕾ちゃんは、今回の童謡フェスティバルに出てみて、「すごく楽しかった」といい、明里ちゃんと栞里ちゃんも、「ピアノ弾く方がめちゃくちゃ緊張して怖いから、歌は楽しかった~~~~」と言っていました。
ピアノでのステージ経験が生きたのでしょう。
全く物おじしていない、堂々としたステージでしたから(笑)
今回のでき事で、教室のほかの生徒たちも「自分には何ができるか」「何が好きか」の問いかけを、自分自身にしたのではないかと思います。
賞は本当におまけで、でき過ぎの結果でしたが、生徒たちのお陰で多くのことを学び、原点に戻ることができました。
賞ではなく、結果ではなく、心の底からその音楽を楽しむこと。
それが、何よりも幸せなんだなぁ。
そして、ステージの上であんなに生き生きと、のびのびと音楽を楽しむ姿が見られるって、親としてこれほど幸せなことはありません(私は親ではありませんが…心は親(笑))。
生徒たちに感謝です。