咲弥ちゃんは小学校5年生。反抗期もあり、なかなかお母さんの言う事が素直に聞けません。

譜読みが苦手な咲弥ちゃんは、新しい曲になると毎回病んで、親子バトルが始まります。

曲も難しくなり、お母さんの手には負えなくなるけど、でもいつまでたっても出来るようにならない娘の様子に、お母さんの方が心配になり、ついつい口出しをして、その言葉に咲弥ちゃんがキレて大バトルに発展する・・・と言うもの。

あ~~我が家にもあったなぁ、そんな事・・と懐かしく思い出されます。

とはいえ、当の本人たちには大問題!

いつまでこの激動の日々が続くのか光も見えず、解決策もなく、精神的にもいつもイライラいしているので譜読みもはかどらず、レッスンの日はあっという間にやってくる、という悪循環の苦しい日々。

何も言わなくても、咲弥ちゃんの様子やお母さんの表情から、その嫌な空気を感じることが出来ました。

レッスンの時に咲弥ちゃんに質問してみました。

「咲弥ちゃん、この曲好き??」
咲弥「好きだったけど、今は好きじゃない」

「あれ?どうして変わったの?」
咲弥「なかなか弾けるようにならないから、嫌になった」

「あ~~わかる。あんなに好きだったのに、なかなか自分のものにならないと気持ちが折れるよね!『絶対弾けるようにしてみせる!』って思ってたのにね・・」
咲弥「思ってたけど、今はやる気にならない」

「そうか・・・それはどうしてだろう。難しすぎるから?」
咲弥「毎日練習してるのに練習量が足らないから・・・」

「そうなの?どうして練習量が足らないってわかるの?」
咲弥(ちらっとお母さんの方を見て黙る)・・・・」

お母さんにも質問してみました。

「あんまり練習してないのかな?」
咲弥母「毎日ピアノの前に座っていますけどいっこうに弾けるようにならないんです!」

「練習してるんだね!えらいえらい!!だったら原因は練習量不足じゃないんじゃない?」
咲弥母「練習の質が悪いんですか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。咲弥ちゃんは練習してるのに、練習する気にならないって言ってるのが気になるなぁ・・・」

咲弥母「練習するって言っても、私が声をかけないとしませんけど・・・」

お母さんのその言葉を聞いて、私はお母さんに質問してみました。

「ねぇねぇ、なんて声かけてる?咲弥ちゃんに・・・」

咲弥母「普通に『練習しなさい』って言っています。一回で動けばそれで終わりますけど、だいたい最初に声かけたときはのんびりしていて、嫌がられますね」

「なるほど・・・・・。もしも、ちょうどお母さんと咲弥ちゃんがのんびりしているところにご主人が帰って来て、いきなり『このテーブルの上、物がいっぱいあるね。いったいこれはいつ片づけるの?』って皮肉交じりに言われたらどんな気持ちになる??」

咲弥母『なんなの?いきなり・・・あとでちゃんと片づけるよ』って思いますね。嫌な気持ちにはなります」

「そうだよね・・・私もそう思う。じゃぁ、いきなり『テーブルの上くらいきちんと片づけたらどうだ!こんなんじゃお茶も飲めないじゃないか!』ってキレたらどうする?ご主人はそんなこと言わないと思うけどね(笑)」

咲弥母『そんなに言うなら自分で黙って片づけたら?』って思いますよ。そんな言い方は許せませんよ!(笑)」

「だよね・・・。どんな言い方だったら素直に片づける気になる?」

咲弥母「黙ってさっさと旦那が片づけ始めたら・・・ですかね。それか何も言わなかったら多分そのうちやります」

「そうだね。それだと気持ちよくできるよね!先に文句言われたら、その言葉に不愉快になって片づける気持ちにもならないよね」

咲弥母「先生、ということは、原因は私の言い方っていうことですね。この子は黙っていたらするんでしょうか?」

「お母さんの子だもん。絶対するよ!(笑)

ねぇねぇ咲弥ちゃん、咲弥ちゃんだったらなんて言われたら片づける気になる?ピアノじゃないよ、片づけだよ!」

咲弥「う~~~ん。(しばらく考えて)『さぁ、一緒にぱ~~っと片づけようか!』とか『片づけたらみんなでおやつ食べよ』とかやさしく言われたらやる気になる」

「なるほど!!本当だね、やる気になるね!お母さん、いいヒントもらったね~。『一緒』とか『みんな』とか『後でおやつ』っていいよね!」

私にも似たような経験があります。

娘たちがまだ小学生の頃、練習をするためにレッスン室に入ったのに5分もしないうちに出てきてトイレに行く。

そして10分もしないうちにまた出てきて牛乳を飲む・・・

ついつい私が我慢できずに「また出てきたの?」「またトイレ?」「どうして集中して練習できないの?」と言い、そのたびに娘たちは反抗し、嫌な空気が流れ、不機嫌な音で弾く・・・その繰り返しでした。

なんて気が散る娘たちなんだろう・・・と情けなく思って、ある日二人を咎めたら・・・

娘たちから私に「何をしていてもいいから、寝ててもいいから、一緒にピアノの部屋にいてほしい」という驚きのリクエストが来ました。

もちろん黙ってその場にいるだけ、という条件付きです。

最初は楽譜を片づけたり、部屋を片づけたりしていましたが、何も言わずじっとしている60分の長いこと!!!
60分経過して、思わず私の方が「ねぇ、ちょっと休憩しよう!」と声をかけました。

しょっちゅう出てくるのは「お母さん、何してるの?」「ねぇ、みんな何のお話してるの?」って気になっていたんだ、自分だけがピアノの部屋に閉じ込められてた気がしてたんだな、とわかりました。

だから何もしなくてもいいから一緒の部屋にいてほしい、っていうリクエストが来たんだな、と。

私も同じ時間を共有することで、娘たちの休憩したくなる気持ちや気が散る気持ちがわかりました。

それだけで自然に「よく頑張ったね~!ちょっと休憩する?」と承認の言葉が出るようになり、長く一つの事を頑張れる娘たちに感心し、尊敬するようになったのです。

その昔話を聞きながら、きっと咲弥ちゃんのお母さんもそのことに気がついたのでしょう。

咲弥母「一緒にやるって、言葉で言うのは簡単ですけど、実際問題、実行するとなると私の方が難しいです。
ついつい『これを練習しておいてね』とか『レッスンで言われたことを復習しておきなさい』って命令だけして、自分は自分の仕事をやったりしています」

「そうなんだよね、その方がうんと楽だよね。わかるわかる。親って本当に勝手だよね」

咲弥母「そうなんです。その場にいるとどうしても口を出したくなりますし、それを黙って聞くだけって気が遠くなります」

「わかる・・・。私も最初はストレスで総白髪になるかと思うくらいだった(笑)。

でもそのうち『もうちょっと待ってみよう』って気持ちが芽生えて来て、自分で気がついてくれた時は『あ~~言わなくて良かった』って思うようにもなったの。母親も修行がいるの(笑)」

咲弥母「そうなんですか・・・。私は娘よりも人間が出来てないかも・・・。娘のように練習もできないし・・・」

「それを咲弥ちゃんに、一番に伝えてあげないと、ね!」

咲弥母「そうですよね・・・。そんな事全く言わずに文句ばっかり言っていました。機嫌が悪くなったり娘が落ち込んだり、やめたくなった時だけ『よく頑張ってるよ』とか『応援するよ』って言っても効果はないですよね・・・」

「わかる。言葉ってタイミングが悪いと何の効果もなくなるよね」

咲弥母「私のように口で言うばかりで一緒に部屋にも入らない人間は、練習の良し悪しを言う権利なんてなかったんですね。文句を言うなら一緒にやる覚悟がないと・・・・」

「わかるよ。私も子育てしているときに、『文句をいう時は最後までつきあう覚悟がある時に言う』って決めてた。言いっぱなしはやめよう、『勝手にしなさい、は禁句!』って思ったら口数が減るよ(笑)」

咲弥母「本当にそうですよね。言い方も言うタイミングも回数も考えて、気持ちよくやってもらうようにします」

「実はね、私の両親も弟と私が練習したり勉強したりするときは、何も言わずに同じ部屋で絵をかいたり、編み物したりしてくれてたの。ただいてくれるだけで何も言わないから、一人でいたい、とか、一人でやりたい、と思ったことなかったんだよね」

咲弥母「いつも『お母さん、向こうに行って!』って言われている私は最低ですね…(笑) 口を慎みます」

「本当に実際にやることは難しいことだよね・・・。まずはお口チャックからやってみようか?」

咲弥母「はい!」

黙って一緒につきあってくれるお母さんがいるこどもは、何倍も頑張れます。
それは頑張りを認めてくれるお母さんがいつも味方についているから!

そしてみんなの頑張りを信じて待っていてくれるお母さんがいつも味方にいるから!!